白血病のため8歳でこの世を去った高橋勝成プロの次男・勝紀君が好きだったスナッグゴルフを通じて子どもたちの心身をはぐくむ活動を続けるカッツ・キッズ・クラブ。毎年開催されている勝紀杯は、年々参加者が増え、会場のゴルフ場は子どもたちの楽しい笑顔であふれている。カッツ・キッズ・クラブの原点とそこに込めた思いについて高橋プロに話を聞いた。
―カッツ・キッズ・クラブが設立された経緯は 入院していた勝紀の仮退院が許された時に、家族4人で初めてスナッグゴルフをしました。その日は寒い日だったのですが、勝紀はいつまで経っても楽しそうにプレーしていたんです。勝紀に合っているのかもしれないと思い、その後も何度か教えました。そして、勝紀が通っていた小学校でもスナッグゴルフの教室を開かせてもらい、クラブを一式寄贈しました。
勝紀が亡くなった後、小学校から連絡があり、勝紀の同級生たちがスナッグゴルフ全国大会の予選に出たいのだが、と相談がありました。その時初めて知ったのですが、勝紀は友達と練習をして大会に出ようとがんばっていたらしいのです。勝紀のその思いをしっかり受け継いで、スナッグゴルフを楽しめる場を作ってあげたいと思いカッツ・キッズ・クラブを設立しました。
年に2回、勝紀の誕生日である1月9日ごろ、また亡くなった8月9日ごろにスナッグゴルフの大会である勝紀杯を開いています。親として、亡くなった子どもにしてあげられる最大限のことをできればと考えました。
―カッツ・キッズ・クラブにはどのようなクラブにしたいと考えたのでしょうか。 年齢や世代の垣根を越えて、知らない友達同士みんなでわいわいやりながら、外の空気を吸い、芝の上でスナッグゴルフを楽しんでほしいという思いがあります。そして体力をつけて、抵抗力を持った健康な子どもに育ってもらいたいというのが大きな趣旨です。
さらにぜいたくを言わせていただくなら、子どもはお父さんお母さんべったりではなく、子ども同士で、また、お父さんお母さんは、大人同士で交流できればいいなと考えています。子どもたちの目線での発想を尊重した、子どもたち中心のクラブにしたいからです。
―勝紀杯はすでに多くの回を重ねています。 少しずつ中身も変えてきています。もともと親子がペアになる競技からスタートしたのですが、子どもは親の目を気にしすぎ、親は目を光らせすぎという面が感じられたことから、ある程度1人立ちできる年頃から、親は親、子どもは子ども同士の競技も追加しました。また、子ども同士のつながりを強くするためにはスナッグゴルフだけではだめだと感じ、競技の前に他の遊びを入れるようにしました。体操教室の協力をいただきながら、歌を歌ったり、ゲームをしながら交流をしてもらっています。はじめは芝の上でそのようなことをするとゴルフ場からどのようなことを言われるか心配しましたが、快く受け入れてもらっています。
欧米では名門コースでも、コースを一般の方に散歩できる場として開放しています。そして一般の方も芝を大切にするなど自然に対する心構えができています。そういう意味では日本のゴルフ場ももっと子どもたちのために開放し、ゴルフ、ゴルフ場に親しんでもらう機会を増やしてほしいと思います。
―他にゴルフ場で遊ぶことでどのようなことを学んでほしいですか。 エチケットとマナーです。エチケットとマナーには違いがあります。エチケットは、言葉遣いや礼儀作法など対人関係で不快な思いをさせないことであるのに対し、マナーは行為に対するものであり、ゴルフで例を挙げるなら、芝に目土をしたり、バンカーを直したりすることです。
ゴルフにはルールとマナー、エチケットが存在します。子どもであろうとそれを守れないのであれば、罰を受けなければなりません。私は、大会に参加してくれる限りは自分の子どもだと思って、叱るべきところは叱っています。ゴルフ場を貸していただき、様々な方の協力があってこのような大会を開くことができているという気持ちを忘れてほしくないですね。
ゴルフ場は大人の社交場です。大人同士になれば、マナーやルールを守れない人に対して叱ったり怒ったりするよりも、その人とは付き合わないというレッテルを貼って線引きをします。腹の中にためてしまうからよけいにこわいのです。だから子どもたちには、技術ばかりを身につけようとする前に、エチケットとマナー、人間としての付き合いをここで学んでほしいと思っています。
ただ、あいさつを教えるのでも、強制的に学ばせるのではなく、まずはお互いの信頼関係を作ることが大切だと思っています。信頼関係ができればまた来ようと思うでしょうし、自然とあいさつができるようになって、感謝の気持ちも芽生えるようになります。時間はかかりますが、根気を持って子どもたちと接していこうと思っています。
―クラブから、将来プロゴルファーを目指す子どもたちが出てくるかもしれませんね。 親から言われてというのではなく、ゴルフの楽しさを自分たちで感じて、自分の意思でプロゴルファーになりたいと考え、入門してくれるようになればいいですね。 |